蒼夏の螺旋

   “前倒しの かぶりつき”
 


かぶりつきというと、
本来というか広く使われる言い回しとしては、
演芸や芝居など 齧りつくように間近で観るようなとする
舞台などへずんと間近な場所のことを言い、
相撲で言ったら土俵際の砂かぶり、
コンサートなら舞台を取り巻くアリーナ席、
もちょっと下世話な舞台の〜〜〜のことを指すほうで知られていたものだが、

 「最後のは何なんだ?」

おや、聞こえませんでしたか?
18歳未満はお断りの例のアレですよvv

 「??」

判りませんか? おかしいな。
あ、もしかして18歳未満でしたか?

 「…あっ、いやいや、
  そそそ・そうかそうか、
  アレかアレだよな、うん。////////」

やっぱ判ってない方に 500ベリー。(大笑)


  ……とかいう、
  保護者というか旦那に殴られそうな、
  調子づいた冗談はさておいて。(まったくだ)






新しい年が明けた一月中は、
縁起物だったり“初”がつくよな行事もたんと押し寄せて。
お餅を食べたり おせちを食べたり、
コーチをしている子供たちのサッカーチームの初練習で、
思い切りはしゃいだ揚げ句、
何故だか凧揚げ大会になだれ込み、団体優勝しちゃったり。
成人の日に開催された ご町内ハーフマラソン大会で、
飛び入り参加したゾロが何故だか途中で迷子になりかかり、
道を訊いた人が何と空き巣だったため、
途中から捕り物騒ぎになっちゃったりもしてと。
美味しかったり楽しかったり、思わぬ騒ぎにワクワクしたり、
様々に堪能し尽くしたルフィさんだったようですが。
つか、たった一カ月の間で、どんだけ波瀾万丈な人たちなんでしょか…。

 「二月と言ったらこれだよなvv」

まだ一月が1週間ほど残っておりますが、
そこは…企画部のエースを旦那に持った身の奥方ゆえ、
歳時のいろいろ、微妙に前倒しなものとのお付き合いも多々あって。
二十四節季の大寒の次、
立春が来るその手前に待ち受ける例の行事こそ、
食いしん坊の若奥様を奮い立たせもするらしく。

 「というか、試食はさんざんしただろに。」

もう一生分は喰ったぞなんて、
勇ましくも豪語していたのは何処のどどいつかと。
困った奴めという苦笑と共に、
リンゴ箱ほどはあろう大きめの保冷仕様のケースを
帰宅した早々、
どどんとテーブルへ置いた旦那様にしてみても。
奥方が嬉しいのなら自分にも嬉しいと
言わんばかりの笑顔ではあったのだけれども。

 「早く見せろってvv」
 「判った、今 出すから。」

まだ背広姿のまんまながら、
勿体振るつもりはさらさらないご亭主が、
パックの蓋をぐるりと巻いていたテープを剥がせば。
待ち切れないと横合いから伸びた手が
ぱかっとその蓋を勢いよく開けるコンビネーションの見事さよ。
そんなしてご開帳あそばしたケースの中に入っていたのは、
黒々した外装にくるまれた、
何本もの巻物…に見えなくもなかったが。
食いしん坊めというノリの中、
今更、忍者ごっこや埋蔵金発掘ごっこを始めてもしょうがない。
もうお判りでしょうねの、

 「恵方巻き〜〜っ!」

切らないまんまで食べきることというのを“丸かぶり”といわれている、
節分に食べる太巻きのお寿司。
大元は関西地方の海苔問屋が大きに喧伝したものがじわじわ広がり、
福豆だけじゃあ物足らぬとしたコンビニ各社が、
二月頭の節分フェアとして競うように全国へ広めたとされる、
節分に付き物な縁起もの。
今やデパート出店しているような有名店や、
はたまた割烹料亭風の高級な寿司店でも、
それとなく用意しておいでなほどの伝播っぷりと来て、
クリスマスケーキや聖バレンタインデーのチョコに次ぐ、
販促由来の風物詩として定着したも同然な代物だけれども。

 関東では“海苔巻き”っていうんですってね。
 関西じゃあ、広く“巻き寿司”って呼んでるけどなぁ。
 おにぎりとおむすび程度の違いなのかなぁ?

 「俺はどっちも大好きだっ!」
 「判ったから、せめて皿に出してから食え。」

さっそくにも一番上のを手にとって、
セロファンで丁寧に巻いてあるのを解くのももどかしく
端から齧ろうとするワイルドな奥方なのへ。
そちらさんは、戒律厳しい武道の嗜みがあってのゆえんか、
豪放に見えても実は実はお行儀にはうるさくて。
最低限の行儀は守れと言い置いたそのまま、
ふんぐぐぐと抵抗する腕を掴み止めると、
腕相撲よろしく、自分の側へと引いて引いて。
そこへ用意してあった皿に一旦タッチさせ、

 「よし、いいぞ。」
 「おっし。」

了解を出してパッと手を放せば、
待ってましたと食いつくあたり。
そんな一連の呼吸こそ
な、なんか、わんこの躾けっぽいんですが。(笑)
そんな勢いのいい食べっぷりながら、
そこはさすがに企画部係長殿の奥方で。
豪快な食べっぷりをしつつも、
最初の1本目へうんうんと頷くと、

 「ふあ、同じ海鮮巻きっつっても、微妙に違うのな。」

マグロとエビとアナゴを一緒に巻くなんて、
こないだ ちょっとはしゃぎすぎてないかって言ったのに、
こっちのは その上にサーモンまで入ってるしよと。
がぶりと大口で食らいつつも、
ちゃんと中身を吟味している抜かりのなさよ。

 「まぁな。
  そもそもの由来が
  “七つの福を巻き取る”ってことらしいからってんで、
  何処も何を巻いてるかで勝負したいらしくてな。」

ネクタイを解きつつ、ゾロが補足とした言いようから察するに、
どうやら、各地の恵方巻きを一挙に並べて
さあご覧うじろというよなイベントがあるらしく。
その代表を選り抜くための、味見というか吟味というか
ほんのつい先日にも
これと同じほど大量の恵方巻きのサンプルを
一気に食したルフィさんだった模様ですが。
それでも太らないなんて、ぬぁんてうらやましい…。(笑)
立て続けに海鮮ものVer.のを3、4本ほど平らげ、
中休みにとお茶を堪能しつつの まずはのご意見が、

 「でもな、大阪のメル友のおねいさんが言うには、
  米も福の1つなのになって。」

そう、本来はそうと勘定したはずなのですが、
これも某アベノミクス効果なものか、
ちょっと贅沢にも、酢飯は別勘定にした上で、
今や 七つの幸を巻く代物が主流となりつつあるらしい。

 「あ、こっちのは飛び子が入ってる。」

旨いのは認めるけどさと、
食いしん坊なルフィさんとしては及第点をつけつつも、

 「その分、お高いんじゃあ意味ないじゃん。」
 「まぁな。」

名のある寿司店の品は、物がいいだけ価格も割高。
そこはゾロも懸念しているようで、
こちらさんは熱燗をつけた日本酒のお供として、
掟破りにも切り分けたもの各種を、
食べ分けておいでで。

 「ま、縁起物だから。」
 「年に一度の?」

寿司屋にしょっちゅう行くよな親父が
馴染みで通ってそうな店のじゃんか これ、と。
忌憚のない見解というのを披露した奥方だったが、

 「俺としてはァ、こういう行事は廃れちゃ困るしィvv」

打って変わって、
お眸々にきらきらした星を飛ばしもってのうっとりと、
そんな言いようを持ち出すものだから、

 「言うと思った。」

ゾロの側も苦笑が絶えぬ。
そう、何も美食家っぽい“いちゃもん”をつけたいのではなくて、
あまりの盛り上がりっぷりが、彼なりに心配なのであるらしく。

 「あんまり極端に盛り上がるとサ、
  飽きたり辟易しちゃう人が出て来て、
  ただのブームで終わりかねねぇじゃん。」

あっと言う間にブームが去った
ティラミスとか ナタデココとか パンナコッタみたいにサと、
ちょっと待て何であんたが知っているのというほど
随分と昔にブームだったスィーツいろいろを、
指折り数える坊ちゃんだったりし。(笑)
20歳ちょっとほどというお年頃なら、
覚えてて クレームブリュレか カヌレくらいじゃあないかい?
それか、フォンダン・ショコラとか…。

 「俺としてはプリンとかロールケーキとか派だけどな。」
 「おお、案外と庶民的なのな。」

ロールケーキと言えばと、
保冷ケースの下のほうからゾロが取り出したのが、

 「こういうのもあんぞ。」

七つのフルーツが入った“恵方ロールケーキ”とやら。

 「やっぱり出たか。」

そういや、マックかどこかでは
トルティーヤの長いのとかなかったですかね。
野菜とエビとか巻いて巻いてってのが。

 「カルビの海苔巻きやエビフライ巻きは
  総菜店なら普段からあるくらいだしなぁ。」

 「え? そうなのか?」

結構考え抜いて出した店もあるぞ、それと。
おおおと意外そうに驚くゾロだったのへ、

 「庶民のアイデアの方が裾野が広いってな。」

ふっふっふ…っと、
何故だか 我がこと自慢のように鼻高々な奥方だったりし。
こっちのは海苔に絵が描いてあるんだなとか、
あ、小柱入ってる、俺これ好きvvとか、
1つ1つを丁寧に審査しておいでの奥方の評が
果たしてどれほど響くものなのか。
ともあれ、春の背中が見えて来つつある行事への、
カウントダウンも間近という、それこそ“前倒し”なお話でした。





     〜Fine〜  14.01.24.


  *ちなみに、今年の恵方は東北東だそうです。

   ところで、前倒しといえば
   月末にもっと大事な日があるはずなんですが。
   そっちのほうは大丈夫か、旦那。
   うかうかと油断していると、
   またぞろ、あのサンジェストのおっ母様が
   仰々しい垂直昇降機(ヴィトール)でマンションまで乗り付けるぞ。(大笑)


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